パワーハラスメント(パワハラ)とは
パワハラの定義
職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)とは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①ないし③の全ての要素を満たすものとなります。
厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」3-5頁において、パワハラに該当する代表的な例が詳細に紹介されています。裁判例上は、職場における人格否定的な言動(福島地裁群山支部平成25年8月16日判決)や、職場において特定の労働者を過度に晒し者にするような言動(東京高裁平成17年4月20日判決)について違法性が認められる可能性が高いことが指摘されています。
参考:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」
業務上の指示や注意指導とパワハラ
上司による業務上の指示や注意指導がパワハラであると主張されて、「業務上必要かつ相当な範囲」内のものであったか否かが争点となるケースがよく見られます。
問題となる言動が「業務上必要かつ相当な範囲」のものといえるか否かは、当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等の諸事情を総合的に考慮しつつ、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないといえるかにより個別的に判断されます。
事業主に対する雇用管理上のパワハラ防止措置義務
労働施策総合推進法により、事業主は職場におけるパワハラ防止のための雇用管理上の措置(パワハラ防止措置)を講じることが義務付けられています(30条の2第1項)。パワハラ防止措置義務違反は行政指導等の対象になります(33条1項)。
事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
就業規則その他の職場における服務規律を定めた文書で、職場におけるパワハラを行ってはならない旨を規定するとともに、職場におけるパワハラを行った者に対する懲戒規定を定めてその内容を労働者に周知・啓発することが例として挙げられます。
厚生労働省の「職場におけるハラスメント対策パンフレット」34-38頁で周知・啓発のためのハラスメント規程例が紹介されています。
参考:厚生労働省「職場におけるハラスメント対策パンフレット」
相談に応じて適切に対応するために必要な体制の整備
職場のパワハラに関する相談窓口を設置して労働者に周知し、相談窓口の担当者が相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにしておくことが求められます。相談窓口の担当者が必要に応じて人事部と連携を取れる仕組みを作ったり、相談窓口の担当者向けのマニュアルや研修の実施などが例として挙げられます。
<福島地裁群山支部平成25年8月16日>
使用者は、被用者に対し、労働契約法5条に基づきまたは労働契約上の付随義務として信義則上、被用者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務(職場環境配慮義務)を負っており、本件のようなパワーハラスメント行為等が見られる事例においては、パワーハラスメント行為等を未然に防止するための相談態勢を整備したり、パワーハラスメント行為等が発生した場合には迅速に事後対応をしたりするなど、当該使用者の実情に応じて対応すべき義務があるというべきであって、少なくとも違法なパワーハラスメント行為等が認められるような状況がありながらこれを放置するなど、適切な対応を講じないなどといった状況等が認められる場合には、上記の職場環境配慮義務違反となるものというべきである。
職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
相談窓口に寄せられた事案について、①行為者や被害者、関係者のヒアリングを行いつつ、事実関係を迅速かつ正確に確認し、②職場におけるパワハラに該当する具体的な事実を確認できた場合には、速やかに被害を受けた労働者に対する適正な配慮措置を行うとともに、③行為者に対する懲戒その他の適正な措置を講じること、並びに、④職場におけるパワハラに関する方針を改めて周知・啓発するなどの再発防止措置を講じる必要があります。
<国立大学法人金沢大学元教授ほか事件(金沢地裁平成29年3月30日)>
本件は、使用者は、被用者に対して、労働契約上の付随義務として職場環境配慮義務を負っており、被用者からハラスメント行為が行われているという申告があった場合などハラスメント行為が疑われる場合には、ハラスメント行為の有無等の事実関係を調査した上で、具体的な対応をすべき義務があるとの一般論を示しつつ、ハラスメント調査委員会が被害者の面談の協力を得られないために調査を休止するなど、ハラスメントの具体的内容や原因の十分な調査がされなかったとして職場環境配慮義務違反が認められた事案となります。被害者の調査の協力が得られなくとも、被害者以外の関係者のヒアリングなどによりハラスメントに係る事実関係を調査・確認する必要があるものといえます。
前記の①ないし③までの措置と併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止)
- 職場におけるパワハラに係る事後の対応に際して、相談者や行為者等のプライバシーを保護するためのマニュアルの作成や研修の実施などの必要な措置を講じるとともに、社内イントラやパンフレットなどで周知すること
- 就業規則その他の職場における服務規律を定めた文書(社内報、社内イントラ、パンフレットなども含む)において、パワハラの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること
パワハラ防止措置義務に関連する裁判例
福島地裁群山支部平成25年8月16日
社会福祉法人が経営する保育園(以下「本件保育園」)に勤務していた社員(以下「本件社員」)が、本件保育園の事務長から頻繁に「おまえのせいでここの保育士の質は最低だ。」など言われたり、勤務時間内外を問わず本件社員を呼び出して1時間以上にもわたり立たせたまま話をさせられたりしたこと(以下「本件暴言等」)がパワハラに当たるとして、社会福祉法人等に使用者責任ないし共同不法行為に基づく損害賠償請求をした事案となります。
裁判所は、本件保育園の事務長の本件暴言等が本件社員の人格の否定までに及んでおり頻繁・執拗かつ継続的に行われたものであることを考慮してパワハラ該当性を認めて不法行為責任を肯定しました。そして、事務長の本件暴言等が職務執行中に行われたものとして社会福祉法人の使用者責任も肯定するとともに、本件社員が社会福祉法人の理事長に本件暴言等を相談したにもかかわらず調査等が行われなかったこと等を理由として社会福祉法人の職場環境配慮義務違反も認めて共同不法行為責任も肯定しました(結論として、60万円の慰謝料と6万円の弁護士費用の損害が認められています。)。
<ポイント>
労働施策総合推進法上のパワハラ防止のための雇用管理上の措置義務としての、パワハラの相談体制の整備や、パワハラに係る相談があったときの事後の迅速かつ適切な対応を怠ると、雇用契約上の職場環境配慮義務違反としても問題となり得ることに留意を要します。
ゆうちょ銀行(パワハラ自殺)事件(徳島地裁平成30年7月9日)
元従業員の遺族が会社の従業員(上司A・B)からのパワハラを受けて自殺したと主張して使用者責任ないし債務不履行に基づく損害賠償請求がされた事案となります。
裁判所は、上司A・Bが元従業員に対して日常的に強い口調の叱責を繰り返し呼び捨てにするなど、部下に対する指導としての相当性に疑問があることは否定できないが、頻繁に書類作成上のミスを発生させたことを理由とするものであって人格的非難まではなかったため「業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものであったとまでは認められない」としてパワハラ(使用者責任)を否定しつつも、上司A・Bとの人間関係に起因する体調不良や自殺願望に対する元従業員の異動を含めた適切な対応を取らなかったとして安全配慮義務違反の債務不履行を肯定しました(結論として、会社の安全配慮義務違反と従業員の自殺との因果関係が肯定され、約3600万円の逸失利益、2000万円の慰謝料及び560万円の弁護士費用の損害が認められています。)。
<ポイント>
本件では、上司の部下に対する日常的な強い口調での頻繁な叱責について、指導としての相当性に疑問があるとはいえ、部下の頻繁なミスを理由とするもので人格非難にまで及んでいなかったとしてパワハラ該当性を否定しつつも、(ハラスメント相談窓口や内部通報窓口が設置されており、パワハラに係る外部通報や内部告発もなかったという状況下において、)部下の体調不良や自殺願望を認識しつつ異動を含めた職場環境の改善の対応をしなかったとして安全配慮義務違反が認められています。パワハラの相談があったか否かやパワハラに該当するか否かにかかわらず、体調不良等を抱える従業員を放置すると安全配慮義務違反に問われる可能性があるため、従業員の体調不良等を把握した際には迅速かつ適切な対応が求められることといえます。

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