副業・兼業の現状
近年、働き方改革の一環として副業・兼業を認める企業が増加しています。厚生労働省は「モデル就業規則」を改定し、副業・兼業を原則認める方向性を示しました。背景には、労働者のキャリア形成や所得向上、企業間での人材流動性の促進があります。一方で、企業側には労務管理や情報漏えいリスクへの対応が求められます。
参考:厚生労働省「モデル就業規則」
副業・兼業の制限の可否
副業・兼業は原則自由
社員が勤務時間外にどのように時間を使うかは基本的に自由であり、その時間に他社で就労(兼業)することを原則として許さなければならないことを示しています(京都地裁平成24年7月13日)。
このため、就業規則による副業・兼業の全面的な禁止は合理性を欠き無効とされ、或いは、副業・兼業を全面的に禁止する個別の同意も公序良俗違反として無効とされる可能性が高いといえます。
<小川建設事件(東京地裁昭和57年11月19日判決)>
私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。
例外的に副業・兼業の制限が認められるケース
就業規則において副業・兼業に関する許可制ないし届出制を設けることにより会社が副業・兼業を禁止・制限できるのは、副業・兼業により会社の利益が害される場合に限られ、会社の事業内容、労働者の役職・職務内容、副業・兼業先の事業内容や担当業務内容などの総合考慮により判断されることになります。
副業・兼業を禁止・制限できる典型例は以下のような副業・兼業のケースとなります。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 自社の名誉や信用を毀損する行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 ・競業により会社の利益が害される場合
- 競業により会社の利益が害される場合
会社の許可なく副業・兼業をした場合の懲戒処分等
就業規則上の副業・兼業の禁止の違反が発生した場合に懲戒処分を科すことがありますが、就業規則における副業・兼業の不許可事由に形式的に該当する場合であっても、副業・兼業により実質的に本業に支障が生じたり職場秩序に影響を与えたりするものと認められない場合には、実質的に懲戒事由に該当しないとして懲戒処分が無効であると判断されるリスクもありますので、副業・兼業を認めることによる本業への支障の有無・内容や職場秩序への影響の内容等を慎重に検討する必要があります。
従業員による無断の副業・兼業が判明した場合、会社に重大な損害が生じる可能性がある場合を除いて、注意指導・警告・懲戒処分といった流れで、副業・兼業禁止規定の違反状態を是正し将来に向けた労働者の戒めのための処分を講じていくことが望ましいです。
<橋本運輸事件(名古屋地裁昭和47年4月28日判決)>
就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。
副業・兼業と労働時間管理
労働時間の通算
労働基準法38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の運用については通算する」と定めており、「事業場を異にする」とは、事業主を異にする場合も含みますので、自社と副業・兼業先の労働時間を通算して管理する必要があります。
ただし、労働者から副業・兼業先の事業場における労働時間の申告がなかった場合には、労働時間の通算は不要であると解されていますので、労働者が会社に無断で副業・兼業をしていたような場合には、副業・兼業先の事業場の労働時間の通算は必要ありません。
<参考:厚生労働省「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」>
労働時間の通算方法
労働時間の通算方法は、所定労働時間は契約順、時間外労働は実際の労働順で計算し、割増賃金は時間外労働を命じた事業主が負担します。
<具体例>
A社の従業員がB社で副業を始めるケースにおいて、A社で所定労働時間6時間勤務後、B社で所定労働時間4時間勤務した場合には、所定労働時間の合計が10時間となり、法定労働時間である8時間を超える2時間分はB社で時間外労働扱いとなります。さらに、A社で1時間残業させた後に、B社で2時間残業させた場合、時間外労働は合計5時間となり、残業を命じた各社が割増賃金を負担することになります。
<参考:厚生労働省「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」>
管理モデル
労働時間の把握方法としては、労働者の自己申告や事前届出を基本としますが、厚生労働省が示す「管理モデル」を導入することにより、他の事業場の実労働時間の把握が必要とされなくなり、副業・兼業時の労務管理における労使双方の手続上の負荷を軽くすることが期待できます。
管理モデルの導入に当たっては、先に労働契約を締結した会社の法定外労働時間と、後に労働契約を締結した使用者の労働時間(所定労働時間および所定外労働時間)を合計した時間数が、月100時間未満・複数月平均80時間以内となるように上限の設定を合意します。
管理モデルの導入後の割増賃金の計算については、先に労働契約を締結した会社は、自らの事業場における法定外労働時間について、後から労働契約を締結した会社は、自社の事業場における労働時間(所定労働時間+所定外労働時間)について、それぞれ割増賃金を支払うことになります。
<参考:厚生労働省「副業・兼業の場合における簡便な労働時間管理のポイント」>
副業・兼業に関する裁判例
副業・兼業に関する主な裁判例は下記の記事にまとめていますので、ご参考にしていただければと思います。
副業・兼業に関する規定例
第○条 従業員が、会社の勤務時間外において、他の企業に雇用され、役員に就任し、或いは、自ら個人で事業を営む場合その他これに準ずる場合(以下「副業・兼業等」という。)には、所定の手続きに従い、会社から事前の許可を取得しなければならない。
2 会社は次の各号に該当すると判断した場合、副業・兼業を許可しない。
① 労務提供上の支障が生じるおそれがある場合
② 企業秘密が漏洩するおそれがある場合
③ 競業その他の事情により会社の利益を害するおそれがある場合
④ 会社の名誉・信用を毀損するおそれがある場合
⑤ 会社との信頼関係を破壊するおそれがある場合
⑥ 従業員の健康確保に悪影響を生じさせるおそれがある場合
⑦ 副業・兼業等の申請手続きに従わない、又は会社が定める誓約書等を提出しない場合
⑧ その他、前各号に準ずると会社が判断した場合
3 従業員が、会社の許可に基づき副業・兼業等の業務に従事する場合、所定の手続きに従い、副業・兼業等の業務に従事した勤務時間等の実施状況を報告をしなければならない。
4 会社は、副業・兼業等の許可した後においても、副業・兼業等が本条第2項各号の不許可事由に該当すると判断した場合には、副業・兼業等の許可を取り消すこととする。

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