副業・兼業の禁止や制限が認められるケース
労働者が勤務時間外にどのように時間を使うかは基本的に自由であり、その時間に副業や兼業をすることは原則として自由であると考えられています。厚生労働省が公表する「モデル就業規則」でも、副業・兼業を原則認める方向の説明がされています。
このため、会社が労働者の副業・兼業を一切認めないとすることはできず、副業・兼業を禁止し制限するためには合理的な理由が必要となります。
副業・兼業を禁止し制限できる典型的なケースとしては、副業・兼業を認めることにより以下のような事業経営上の支障が生じる場合となります。
- 労務提供上の支障が生じる場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 自社の名誉や信用を毀損したり信頼関係が破壊される場合
- 競業により会社の利益が害される場合
副業・兼業による労務提供上の支障に関する裁判例
マンナ運輸事件(京都地裁平成24年7月13日判決)★★★
事案の概要
大型貨物自動車の運転手(準社員)が、雇用主である運送会社によるアルバイト許可申請の複数回にわたる不許可処分が不法行為に該当すると主張して損害賠償請求がされた事案となります。
裁判所は、本件社員による休みを利用した3~4時間程度の構内仕分け作業のアルバイト許可申請、及び、ラーメン屋の接客・皿洗い等のアルバイト許可申請について、いずれのアルバイトも不許可とする合理的な理由が認められず、会社による不合理かつ執拗なアルバイト就労の不許可処分であるとして不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容(30万円の慰謝料)しています。
<投稿者コメント>
週休2日制のうち1日の休日を利用して3~4時間程度の構内仕分け作業やラーメン屋の接客・皿洗い等のアルバイトをする程度であれば、本業に具体的な支障が生じることは想定しがたく、これらのアルバイトを制限する合理的な理由が認められないとした判断は妥当であり、副業の許可・不許可の判断に当たっては、当該副業を認めることで本業に支障が生じるか否か等を慎重に検討する必要があるといえます。判決抜粋
- 労働者は、勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許され(ママ)なければならない。
- もっとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから、このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。
- 労働者が提供すべき労務の内容や企業秘密の機密性等について熟知する使用者が、労働者が行おうとする兼業によって上記のような事態が生じ得るか否かを判断することには合理性があるから、使用者がその合理的判断を行うために、労働者に事前に兼業の許可を申請させ、その内容を具体的に検討して使用者がその許否を判断するという許可制を就業規則で定めることも、許されるものと解するのが相当である。
小川建設事件(東京地裁昭和57年11月19日判決)★★★
事案の概要
会社の営業所事務員として勤務していた社員が、会社に無断で毎日6時間にわたるキャバレーのリスト係・会計係の副業を約1年間継続してきたことを理由とする普通解雇が無効であるとして仮地位仮処分の保全申立てがされた事案となります。
裁判所は、本件の兼業が毎日6時間にわたり深夜にも及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高いこと、実際に就業時間中の居眠りが多く残業を嫌忌していたこと等を考慮して解雇を有効と判断しています。
<投稿者コメント>
本件では、会社に無断で兼業をすること自体が信頼関係を破壊する行為と評価しうるものであることも指摘しつつ、副業により本業の支障を生じさせる蓋然性が高かったこと等を考慮して解雇を有効と判断しています。ただし、就業規則が禁止する無断兼業に違反した場合、労働者が自らの意思で兼業先から退職して違反状態を解消できる以上、(兼業により重大な損害が生じたような場合を除いて、いきなり解雇に踏み切るのではなく)まずは注意指導や警告、矯正的な懲戒処分の行使によって違反状態の解消を促し、或いは、将来に向けて労働者を反省させるといった段階的な対応を取ることが適切といえます。
判決抜粋
- 私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。
- しかしながら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労働提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがた(い。)
都タクシー事件(広島地裁昭和59年12月18日判決)★★★
事案の概要
午前8時から翌日の午前2時までで勤務終了の日が非番日となっているタクシー会社の乗務員が、会社に無断で非番日の午前8時から午後4時45分まで輸出車の移送、船積み等をするアルバイトを1ヶ月平均7、8回行っていたことを理由とする懲戒解雇が無効であるとして地位確認請求等がされた事案となります。
裁判所は、タクシー乗務の性質上、乗務前の休養が要請されること等の事情を考慮して前記のアルバイトが会社の就業規則によって禁止されている兼職に該当することを認めつつも、何らの指導注意もなく直ちになした解雇は(普通解雇にしたとしても)重きに失するものであり解雇権の濫用として無効と判断しています。
<投稿者コメント>
社員による副業禁止違反があったとしても、それだけで直ちに解雇するのではなく、違反の程度に合わせて厳重注意や指導、又は、譴責処分等を行って反省の機会を与える対応を取り、それでも反省が見られなかったときに解雇に踏み切るといった慎重な対応が要求されるといえます。
判決抜粋
- 債務者の就業規則【補足:「事前に会社の承認を得ないで在職のまま他に転職をし、又は自己業務を営むに至ったとき」を懲戒解雇事由として規定していた。】は会社の事前承諾を得ない従業員の兼職を禁止しているものと解されるが、労働者は原則として労働契約に定められた労働時間のみ服務する義務を負うものであるし、右就業規則において兼業禁止違反の制裁が懲戒解雇を基準としていること等に照らすと、就業規則によって禁止されるのは会社の秩序を乱し、労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られると解するのが相当である。
十和田運輸事件(東京地裁平成13年6月5日判決)★
運送会社の運転手が、年に1、2回程度の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇が無効であるとして地位確認請求等がされた事案で、裁判所は、本件のアルバイトにより本業に具体的な支障を来しておらず、職務専念義務の違反とまではいえない等として、解雇権の濫用として無効と判断しました。
<投稿者コメント>
副業・兼業を禁止し制限する制度があったわけではなく、社員の副業が職務専念義務違反を構成するとして解雇が行われた事案でありますが、年1、2回程度の副業で本業に具体的な支障が生じたものとはいえないと判断しており、副業の頻度もポイントとなりそうです。
副業・兼業による競業避止義務違反に関する裁判例
橋本運輸事件(名古屋地裁昭和47年4月28日判決)★★★
事案の概要
会社の管理職にある従業員が、直接経営には関与していないものの競業他社の取締役に就任したことが「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇入れられ他に就職した者」という懲戒解雇事由に該当するとしてなされた解雇が無効であるとして地位確認請求等がされた事案となります。
裁判所は、管理職にある従業員が会社の経営上の秘密を知りうる立場であり、協業他社の経営に直接関与していなかったとはいえ、競業他社から経営上の意見を求められるなどして経営に直接関与する事態が発生する可能性が十分に見込まれることを指摘しつつ、競業他社の取締役に就任することで会社の企業秩序を乱し又はみだす蓋然性があったものとして解雇を有効と判断しました(なお、6割を限度に退職金の不支給も肯定しています。)。
<投稿者コメント>
本件は管理職の立場にある社員が競業他社の取締役に就任したという無断兼業の事案であり、会社の経営上の秘密が漏洩して重大な損害が生じる可能性がありますので、就業規則の禁止する無許可兼業の違反を理由に直ちに解雇することもやむを得ないものと評価できるものと考えられます。
判決抜粋
- 就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。
ナショナルシューズ事件(東京地裁平成2年3月23日)★★
会社の商品部長という要職でありながら、会社の業種と同種の靴小売店を経営し、会社の取引先から商品を仕入れたり正当な理由のないリベートを要求・収受したことを理由とする懲戒解雇の有効性が争われた事案であり、会社の実害発生の証明はないが、会社との信頼関係を破壊する背信的行為であるとして懲戒解雇が有効と判断されました。
<投稿者コメント>
本件では、会社の要職の立場でありながら会社と競業する事業を営んで会社の取引先からリベートを要求・収受したという背信的な行為を指摘して懲戒解雇相当と判断されています。競業企業での業務の従事や会社再建努力中の他社就労のように、労働者側に信義違背行為がある場合には懲戒解雇が相当であるという判断がされる傾向があるという指摘もあるところです。
協立物産事件(東京地判平成11年5月28日)★★
食品原料等を輸入・販売する会社の社員が在職中に会社と競業関係にある別会社を設立したことが不法行為に当たるとして会社から社員に対する損害賠償請求がされた事案となります。
裁判所は、労働者は、使用者との雇用契約上の信義則に基づいて、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならないという付随的な義務を負い、会社の就業規則にある従業員の忠実義務もかかる義務を定めたものと解されるとしたうえで、本件の社員による在職中の競業会社設立が労働契約上の競業避止義務に反すると判断しました。
自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為に関する裁判例
ジャムコ立川工場事件(東京地八王子支判平成17年3月16日)★★
事案の概要
航空機内装色の燃焼試験業務に従事していた社員が、会社の過失により慢性気管支炎に罹患して休業中に会社に無断でオートバイ販売店を開店したことが就業規則に定める二重就職の禁止規定に違反するとしてなされた懲戒解雇が不法行為であるとして損害賠償請求等がされた事案となります。
裁判所は、会社から休職給を受けながら自営業を営むことは、他の社員から見れば奇異であり、職場秩序を乱すものであって、本件オートバイ店の営業行為の服務規律違反の程度は、雇用契約上の信頼関係を損なう程度のものであるとして懲戒解雇を有効であり不法行為には当たらないと判断しました。
<投稿者コメント>
本件は、会社から休職給の支給を受けて休職をしていた社員が副業をした事案であり、会社から休職給の支給による支援を受けていた以上、療養に専念すべきであったにもかかわらず副業をしていたことが考慮されて懲戒解雇も有効と判断されたものと考えられます。
判決抜粋
- 就業規則において二重就職を禁止し、その違反を懲戒事由としている場合、労働者には私生活上の自由があることから、二重就職が、会社の職場秩序に影響し、かつ会社に対する労務の提供に支障を生ぜしめる程度・態様のものに限って懲戒処分の対象としていると解するのが相当である。
昭和室内装飾事件(福岡地判昭和47年10月20日)★
長時間労働による肉体的疲労度を軽減することなどを目的に残業が廃止されていた期間中に、家具組立工が会社の許可なく同業の競合会社に就労したことを理由に懲戒解雇された事案となります。
裁判所は、残業の廃止に伴う賃金低下を防止するための特別加算金を受給していた社員は、その期間中は特に自己又は他の従業員の作業能率や意欲を低下せしめるような言動を慎しむべき忠実義務があるのにもかかわらず会社に無断で同業他社で就労したことが就業規則の懲戒解雇事由としての「許可なく他に就業しないこと」に違反したときに該当すると判断しています。
その他
長崎県公立大学法人事件(長崎地裁平成23年11月30日判決)
長崎県公立大学法人の大学教員が、会社からの兼業許可を受けて産学官連携の事業として設立されたベンチャー企業の代表取締役に就任して兼業をしていた事案で、本件教員が会社の勤務時間中にもベンチャー企業関係の業務に従事していたことが事後的に発覚して、会社が本件教員に対して兼業従事の実施状況の報告を求めたにもかかわらず拒否されたため、停職6ヶ月の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)をしました。
裁判所は、ベンチャー企業立ちあげの諸業務を行うに当たって、会社の勤務時間内に業務に従事する異が避けられないことは通常容易に理解できたことや、会社の関係者も出席していた会社の勤務時間内のベンチャー企業関係の行事の際に特段の注意・警告がなかったこと等を指摘しつつ、会社が本件教員の勤務時間中の兼業を知りながら、何らの注意・指導をしてこなかった本件では、そのような兼業につき会社から黙示の承認が与えられていたといえ、会社の勤務時間中にもベンチャー企業関係の業務に従事していたことを理由とする懲戒処分は許されないと判断しています(本件懲戒処分が本件教員の教育研究をする権利、名誉等の権利を違法に侵害する不法行為であるとして200万円の慰謝料肯定。)。

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