有期雇用を試用期間と判断して契約当初から無期雇用の成立を認めた裁判例をご紹介

<本事件のポイント>
期間の定めのない雇用契約(無期雇用形態)の場合には厳しい解雇制限を受けて雇用調整が困難で柔軟性に欠けることから、期間の定めのある雇用契約(有期雇用形態)を採用して人材の柔軟性を確保することが多く見られます。しかしながら、TBWA HAKUHODO事件(東京高裁令和7年4月10日判決、東京地裁令和6年9月26日判決)では、雇用契約における期間設定の趣旨が労働者の適性を評価・判断することにあるとして、1年間の有期雇用契約を(無期雇用における)試用期間に該当するものであると判断し、契約当初から期間の定めのない雇用契約が成立したことを認めました。雇用契約の期間を設ければ直ちに有期雇用と評価されて、期間満了により雇用を終了できるというわけではないという注意喚起となる裁判例として注目に値します。

事案の概要

原告は、人材紹介事業を営む会社を経由しつつ、被告会社との間で、令和4年3月1日から令和5年2月28日までの1年間の雇用期間で、年俸450万円(月額37万5000円)とする契約社員として雇用契約(以下「本件雇用契約」)を締結し勤務していたところ、令和5年1月以降に雇用契約の更新について交渉が行われたが合意に至らず、原告は本件雇用契約の雇用期間が満了した同年3月以降も勤務を継続したが、同年7月10日に被告会社から翌日以降の勤務を控えるよう告知されて勤務を中止するに至りました。

原告は、令和5年7月22日に訴訟を提起して、本件雇用契約の1年間の期間の定めは試用期間を定めたものであり、本件雇用契約は期間の定めのないものであって、期間の定めのない雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めました。

争点(有期雇用 or 試用期間)

原告と被告会社との間の雇用契約における1年間の期間の設定が、雇用契約の期間を設定するものであるか、或いは、無期雇用における試用期間を設定するものであるかが争われました。なお、その他の争点は省略します。

当事者の主張と裁判所の判断

原告の主張

  • 原告は、被告会社との採用面接において、被告会社の人事局長から契約期間として示されている1年間は試用期間であり、2年目以降は正社員になる旨の説明を受けてこれを前提に内定を受諾して本件雇用契約が成立した。したがって、本件雇用契約における期間の定めは試用期間を定めるものであって、本件雇用契約は、試用期間を1年とする期間の定めのないものとして成立した。

被告会社の主張

  • 被告会社の人事局長は、採用面接で1年間の契約期間が試用期間であり、2年目以降は正社員になる旨の説明はしていない。
  • 被告は当時、正社員候補者に対して試用期間の趣旨で1年間の有期契約を行う運用はしていない。

裁判所の判断

本件雇用契約における1年間の期間の定めは、原告の適性を評価・判断する趣旨・目的で設けられた試用期間であると解するのが相当であり、本件雇用契約は、1年間の試用期間中における解約権が留保された、期間の定めのない雇用契約であると判断しました。(結論として、一年目と同様の年俸450万円の支払を受ける期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることが認められました。)

裁判所が上記の本件雇用契約が試用期間を定めた無期雇用契約であるとの判断をするに当たって考慮した事情は以下のとおりです。

  • 従前の採用方法
    • 被告会社は、従前、正社員として採用する者に対しても、原則として最初の1年間は契約社員として期間の定めのある雇用契約を締結し、この期間が経過した時点で適任と認められた者に限り、期間の定めのない雇用契約を締結して正社員として雇用するという採用方法をとっており、これを変更した令和元年5月以降も、一定の場合には同様の採用方法をとることが可能であったこと
  • 被告の説明内容
    • 原告との採用面接の際、被告会社の人事局長が、原告に対し、本件雇用契約における1年間の期間の定めが試用期間を設けるものであり、1年後には正社員となる旨の説明をし、原告は、その説明を踏まえて内定を受諾し、本件雇用契約が成立したこと
  • 過去の実績
    • 原告が被告会社にアクセスする際に利用した人材紹介会社の担当者が紹介して被告会社に入社した契約社員について、1年後に被告会社から正社員としなかった例はないこと
  • 職務内容
    • 本件雇用契約において、原告の職務が翻訳・通訳業務に限定されているとは認められないこと

補足:試用期間としての有期雇用契約の期間満了後の賃金額に係る争点について
裁判所は、本件採用面談時の資料や内定通知書には、2年目以降における原告の年俸等については特段の記載がないことから、原告と被告会社との間では、試用期間満了後の期間における原告の年俸についても、1年目と同様の450万円とする旨の合意がされたと解するのが相当であると判断しました。

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