物件の入居募集に際して入居者のペット飼育を認めるべきか否かをご検討される機会があると思います。本記事では、ペットの飼育率の推移をはじめとしてペットの飼育を認める際の注意点などを解説しますので、ご参考にしていただけますと幸いです。
ペットの飼育を認めることの必要性
一般社団法人ペットフード協会の公表する全国犬猫飼育実態調査によると、猫の飼育率は横ばいであるが、犬の飼育率が低下傾向にあることが判明しているほか、世帯年収800万円以上で犬猫の新規飼育率が高くなっている(特に世帯年収2000万円以上)ことも明らかになっています。
世帯年収が高い方をターゲットとする賃貸経営をする場合には、ペット飼育を認めることが効果的な稼働率の安定につながることが期待できますが、駅近の20平米前後の1Kタイプなどであれば、必ずしもペット飼育を認める物件とする必要は高くないでしょう。


ペットの飼育を認める場合の賃貸経営上のポイント
部屋の破損や汚損
入居者のペットの飼育を認める場合、ペットの臭いや爪痕、ひっかき傷などの部屋の破損・汚損による劣化の問題が生じます。これに対しては、消臭や殺菌効果のあるクロスを選択したり、壁紙をクロスではなくフロアタイルなどの塩化ビニル素材シートとするなどの対策を講じることも考えられます。
飼育ペットによる部屋の破損・汚損に係る原状回復費用は賃借人負担と考えられているところ、ペット飼育可の物件の退去時の原状回復費用が通常の賃貸よりも多額となることが予想されますので、「ペット用敷金」や「ペットの飼育に伴う損害賠償額の予定としてのペット飼育承諾料」をあらかじめ取っておくことが望まれます。退去時の原状回復の特約として、壁クロスの張替費用全額を賃借人の負担とする旨を定めることも考えられます。
<ペット飼育によるクリーニング費用を賃借人の負担とした裁判例>
裁判所は、通常の建物の賃貸借において、賃借人が負担する「原状回復」の合意とは、賃借人の故意、過失による建物の毀損や通常の使用を超える使用方法による損耗等について、その回復を約定したものであって、賃借人の居住、使用によって通常生ずる損耗についてまで、それがなかった状態に回復することを求めるものではないが、建物賃貸借の修繕義務に関する民法の原則は任意規定であるから、これと異なる当事者間の合意も、借地借家法の趣旨等に照らして賃借人に不利益な内容でない限り許されることを述べた上で、ペット飼育を可とする建物賃貸借で退去時の消毒の費用について賃借人負担とすることは合理的であり有効な特約であることを認めつつ、クリーニングについては、実質的にペット消毒を代替するものと考えられ、賃借人負担とする特約は有効と認められることから、その費用全額(5万円)は賃借人の負担とするのが相当であると判断しています(東京簡裁平成14年9月27日)。
参考:国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
入居者トラブル
マンションやアパートなどの共同住宅で入居者のペットの飼育を認める場合には、ペットの鳴き声などの入居者トラブルが発生する可能性があります。
あらかじめ飼育マナーや飼育条件などをペット飼育規程に定めつつ、賃貸借契約上にもペット飼育のルールに違反した場合の解約などのペナルティを定めるといった対応が望まれます。
参考雛形:東京都保健医療局「集合住宅における動物飼養モデル規程」
ペットの飼育を認めない場合の対応
ペット飼育禁止特約の明記
入居者のペットの飼育を認めない場合には、賃貸借契約書上にペット飼育禁止特約を明記しておくことで、ペット飼育に対する契約解除の対応を講じれるようにしておくことが重要です。ただし、賃貸人から契約を解除する場合には、債務不履行のみでは解除は認められず、当事者間の信頼関係の破壊が認められてはじめて解除が認められます。
例えば、インコやハムスターなど必ずしも近隣の迷惑にならない小動物の飼育などの実害の発生がなく違反の程度が軽微である場合や、賃貸人が過去にペットの飼育を黙認していたような場合には、賃貸借契約上のペット飼育禁止特約に違反する債務不履行が認められるとはいえ、これだけで直ちに信頼関係の破壊が認められるとはいえず契約の解除が認められないこともあります。
ペット飼育禁止特約違反の違約金の定め
ペット飼育禁止特約と併せて、ペット飼育禁止特約に違反してペットを飼育した場合の違約金の定めを用意しておく必要があります。ペットの飼育により床(フローリング)や壁クロスなどが破損・汚損して全面張り替えが必要となることもありますので、家賃数ヶ月分などある程度まとまった金額の違約金を設定しておくことが考えられます。
入居者がペット飼育禁止の特約に違反した場合の対応
賃借人が賃貸借契約上のペット禁止特約に違反した場合には、ペットの飼育をやめるよう賃借人に警告し、賃借人が警告から一定期間経過してもペットを飼い続けているような場合には、ペット特約禁止違反を理由とする契約解除を通知するといった慎重な対応をする必要があります。
<ペット禁止特約に違反して猫を飼育した賃借人の建物明渡しが認められた裁判例>
賃貸借契約上で「犬猫、鳥等の動物等の飼育」禁止規定が置かれていたにもかかわらず、賃借人が猫を飼育してペット飼育禁止特約に違反したケースで、裁判所は、①平成25年9月9日、賃貸人は賃借人に対して14日以内に猫の飼育をやめるよう求めてこれに応じない場合は契約を解除する旨の内容証明郵便を送ったところ、②同月23日、賃借人が賃貸人に対して猫の飼育を中止し今後はペットの飼育を行わず、ペットの飼育を行った場合には即刻建物を明け渡す旨の念書を差し入れたものの猫の飼育を続けたため、③同年11月21日、賃貸人が本件訴訟を提起して本件賃貸借契約を解除する意思表示をしたという事実関係を認定しつつ、賃貸人がペット飼育を容認しないことを明確に認識しつつも猫の飼育を続けたものとして信頼関係の破壊を肯定して賃貸人による契約の解除を認めました(東京地裁平成26年3月19日判決)。

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